2019年7月から乳牛を襲う怪物『OSO18』と命名されたヒグマの事件。
2024年5月15日には、秋田県鹿角市の山中に出かけた男性が行方不明になり、その後の5月18日にツキノワグマに襲われたと見られる男性の遺体が見つかり運び出そうとした警察官2名も負傷するなどクマの被害が多発しています。
なぜ、森の奥深にいるクマによる被害が増えているのか、また凶暴化している原因やハイブリッドの存在の可能性について考えていきます。
ヒグマとツキノワグマの違い
まず、初めに意外と知らないヒグマとツキノワグマの違いから見ていきます。
実は似ているようで色々異なる点があります。
熊 | 生息地 | 体長 | 体色 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
ヒグマ | 北海道 (本州、四国にはいない) | 170〜200cm | 茶色 | ・穴を掘って住む。 ・木登りが苦手。 ・人間を襲うことがある。 |
ツキノワグマ | 本州、四国 | 130〜150cm | 黒色 | ・木の根の空間などに住む。 ・木登りが得意。 ・胸に「月の輪」の模様。 ・臆病、人間を襲うことは少ない。 |
ヒグマは日本では主に北海道に生息しており、ツキノワグマは本州、四国、九州に広く分布しています。
そのため、この両者はお互いに自然界で遭遇することはないと考えられています。
なぜヒグマは本州にはいないのか?
ヒグマが本州に生息していない理由はいくつかの環境と地理的な要因が関係していると考えられています。また、化石から過去に本州に生息していた証拠も見つかっています。
これは、最終氷期の気候変動により、約7万〜1万年前にヒグマの獲物や植生が変化したことで本州のヒグマは絶滅しました。そして、寒冷期は今よりも120mほど海面が低かったと考えられており、本州から北海道へ陸続きで渡ることが出来たと考えられています。
そして現代に至るまで今のような生息分布になったと考えられます。
(もしも、ヒグマが本州に生息していたら恐怖・・・( °Д°)ハァ )
なぜクマによる被害が多いのか?
その理由は主に2つが考えられます。
- 人間がクマのテリトリーに侵入する
- 獲物や果実の不作
人間がクマのテリトリーに侵入する
北海道や東北は日本の豊かな自然が残る地で、多くの野生動物が生息しています。
特にクマは、日本の森林の頂点の捕食者として知られています。
しかし、本来のクマは非常に臆病で警戒心が強く、人間の軽輩や足音がすると逃げていきます。たまに山中で人が襲われるのはクマのテリトリーにタケノコ狩りなどの目的で入った人達が縄張りに侵入されたと勘違いして攻撃してきます。
獲物や果実の不作
クマは雑食性でシカや小動物などの肉類だけでなく、タケノコ、フキ、どんぐりなどの植物、ハチなどの昆虫も食べます。
しかし、急な気候変動や環境変化によって不作になると、餌を求めて人里へ降りて来ては人間の出したゴミを漁ったり、場合によっては人が襲われてしまうことがあります。
本州でハイブリッドの目撃!?
度々、ニュースでも人間や家畜がクマに襲われる事件が報道されています。
そして、最近では東北地方の山中で非常に珍しい現象が報告されています。それは、ヒグマとツキノワグマの間に生まれたとされるハイブリッドクマの目撃情報です。
なぜこのような情報が広まっているのかというと、猟師たちの間でとある養殖場の近くで大型のクマが目撃されており、『 大型の個体の隠語 = ハイブリッド 』と命名するようになったからです。そのため、実際にハイブリッドの個体が誕生した訳ではありません。
本来、これら2つの種が交配することは自然界では極めて稀であり、もしそれが真実であれば、科学界にとって大発見となります。
しかし、そのような交配は可能なのでしょうか?。
科学的考察
現在のところ、ヒグマとツキノワグマのハイブリッド(交雑種)は確認されていません。

複数のクマのゲノム解析によると、ヒグマとツキノワグマはざっくりとみると遺伝的に近いため、理論的に交配は可能であると推測されます。しかし、実際には多くの障壁があります。例えば、生息域の違い、交配期のタイミング、行動パターンの違いです。ヒグマは海で隔たれた北海道、ツキノワグマは本州に生息しています。それぞれが自然界で偶然出会うことはほぼないと言えます。
仮にハイブリッドがいたとしても見た目では判別できないため、遺伝子解析が必要になるでしょう。
地球温暖化がハイブリッド化を後押しする可能性
ヒグマとツキノワグマとは異なりますが、似たようなケースがあります。
2006年にカナダのノースウエスト準州で、ハイイログマとホッキョクグマのハイブリッドが確認されました。これは非常に稀なケースで地球温暖化により動物たちが北へ集まることで両者の行動範囲が重なり、交雑が起きるようになったことが起因しています。また、本来は異なる種同士では交雑は出来ませんが、この両者は遺伝的にも近いこともありハイブリッドが誕生しています(※4)。
参考文献
(※1):By Robert F. Tobler – Own work, CC BY-SA 4.0, Link“Kamchatka Brown Bear near Dvuhyurtochnoe on 2015-07-23” by Robert F. Tobler is licensed under CC BY-SA 4.0 .
“File:Kharkiv Zoo Asiatic black bear baby.JPG” by Tala tamila is licensed under CC BY-SA 4.0 .
(※3):Kumar, V., Lammers, F., Bidon, T. et al. The evolutionary history of bears is characterized by gene flow across species. Sci Rep 7, 46487 (2017). https://doi.org/10.1038/srep46487
(※4):https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3545/
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